サッカーで世界一を目指す少年の話
中学1年生からサッカーを始めた少年は、ワールドカップで世界で一番を取ることを目指すことにしました。
それも、「夢」で終わらせるつもりはなく、本気の本気、絶対に達成しようと、意気込んでいました。
そのために、来る日も来る日も、頑張って練習をしました。
彼は、もともと運動神経が良い方だったので、どんどん上達をしていきました。
そして、彼の所属していたチームは、県で2位となりました。
彼は、「このペースで行けばワールドカップも見えてくる!」と、ますます、サッカーが好きになり、練習を頑張りました。
サッカーが強い高校に入った彼は、その中でも猛特訓しました。
自分よりも強い先輩に教えてもらったり、時にはプロ選手が開催するサッカースクールへ行ったり、プロ選手が実施している練習方法を真似たりしました。
そして彼は、高校3年生の時に、インターハイで3位になりました。
周りは、彼に「すごい!」と言ってくれますが、彼の表情は冴えません。
彼は、とても焦っていました。
ワールドカップで1位を目指している彼は、自分の目標と今の自分との距離を、昔より正確に把握できるようになってきていました。
18歳という身体能力が高い年齢において、インターハイ3位で終わってしまったこと。
これからトレーニングにより身体能力はしばらくは伸ばせるが、それもあと10年くらいしかないこと。
世界を目指す前に、国内において自分よりも上手な選手がたくさんいること。それは、年上にも、年下にも。
さらに、世界に目を向ければ、日本と世界の差は圧倒的に開いていること。
そして、生まれ持った人種による身体能力に差があること。
多くの事実が、彼に「本当に僕は、世界一になれるのか?」と不安にさせます。
いや、その前にワールドカップに出場できるのか?出場するためには、僕だけの努力ではなく、最強のチームにならなくてはいけない。
そんな、ワールドカップ上位に行ける最強チームが、たまたま僕の世代で、出来上がるのか?
待て待て、それ以前に、今の僕はインターハイ3位。日本代表に入ること自体が難しい…。
いやいやいや、日本代表を考えるのは、僕がプロになってからだ。プロにもなっていないインターハイ3位の僕は、まずプロに合格するところからだ・・・。
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本当に、ワールドカップで・・・世界一になれるのか・・・・?
インターハイで3位になった日の夜、彼は、一人で泣きました。
インターハイで3位だったからではありません。
自分の目標に、気持ちが追い付かなくなったからです。
ひとしきり、泣いた後に彼は、偉い監督さんの言葉を思い出しました。
「諦めたら、そこで試合は終了ですよ。」
彼は、涙をぬぐった後、夜中に一人、ランニングトレーニングを始めました。
今夜を、試合終了の日にしないために。